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藤沢一就八段門下で、日本棋院東京本院所属の木部は一型糖尿病という病をかかえながらプロ棋士として活躍する。
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小さい頃は活発で何にでも興味をもつ少女で、囲碁アニメをきっかけとして小学1年で囲碁を始める。小学3年ぐらいでプロになりたいと思い始める。
その思いをさらに強くしたのは、2005年の第26回少年少女囲碁大会の群馬県代表になったとき。小学4年の10歳で院生になった。しかし、その直後体調が悪くなり一型糖尿病と診断される。
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糖尿病には一型糖尿病と二型糖尿病の二種類ある。一型はすい臓のベータ細胞が白血球の仲間であるリンパ球によって破壊されることでなる病。二型は肥満などが原因の生活習慣病。
- ベータ細胞が壊れると血糖値を下げるホルモンであるインスリンが作れなくなる。
インスリンの役割は血液内のブドウ糖を適切に処理し、血液中の糖分を少なくすること。インスリンが作れないとなると、血液中の糖度はどんどんあがる、つまり高血糖になる。
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高血糖は体によくないのでインスリン注射をして血糖値を下げるが、仮に血糖値がそれほど高くない状況でタイミングを誤ってインスリン注射をうつと逆に低血糖を引き起こすこともある。
低血糖の場合、頭痛や集中力の低下などは避けられない。
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10歳で一型糖尿病を発病した木部は、それ以来病と向き合いながら生きてきた。血糖値を適切な値に保つために、日常生活だけでなく対局中も、血糖値を測る3種類の機械とインスリン注射器が入ったポーチをそばにおいている。
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手合いのとき、多いときは20回ぐらい血糖値を測定する。木部はそれらの扱いにとても慣れていて、ポーチの蓋の部分で手元をできるだけ隠しながら、測定も注射も流れるようにサッと終わらせてしまう。
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適度な血糖値をコントロールするのは難しく、入退院を繰り返しながら院生生活を送った。
囲碁をやめたら楽になれるのかなあと思ったこともあったが、病気のせいにするのは一番嫌だったので、プロ棋士をあきらめるという選択肢は浮かばなかった。
院生になってから何度か入段試験を受けるが全て落ちる。体調不良が原因なのは明らかだった。
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丈夫な体と心をつくる。体調を整えることに専念するために、15歳のプロ試験は見送る。そしてついに16歳で入段。
一年間の休養は決して無駄ではなかった。嬉しかったし、ほっとした。
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病気に関してハンデだと思ったことはない。病気でも頑張ってやることで、同じ病気の人たちが励まされるのなら嬉しい。
(2013年4月囲碁フォーカスより)
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